2012年11月9日金曜日

ルプー氏のリサイタルを聴く。

昨日はオペラシティでラドュ・ルプー氏のピアノリサイタルを聴いた。



何とも言葉では言い表せないのだけれど、柔らかくて、ほんのりあたたかいのだけれど、決して手に取って触れることができない神聖で不思議な気持ちを呼び起こされるというか、思いがけず、予想をはるかに超えた容で、音楽美の核心に触れたような、とても得難い時間だった。



大学時代、大変お世話になり今でも心から尊敬している故・ゴールドベルク・山根美代子先生は、レッスンに伺うとよく「昨日もルプーちゃんから電話があったのよ。」とおっしゃっていて、「ルプーちゃん!?」と驚いたものだけれど、昨日の音楽体験は、山根先生から教えていただいた微かな感覚を呼び起こし、そして先生が当時おっしゃっていたことの意味が、ようやくひとつになるようなものであっただけでなく、留学前、結果的に最期となってしまった山根先生とのレッスンで、別れ際に先生からいただいた言葉があらためて思い出された日となった。



彼の音楽には不自然で歪な淀みや力みは一切なく、ただ黙々と目の前の音楽と対峙している、孤独で、真摯なひとりの人間の在り様を観客として、垣間見させてもらったと思います。



あの境地に行くことは、並大抵のことではないと思う。それに彼は本来人並み外れた才能の持ち主であるという前提がある。それでも、音楽に携わる人間の端くれとして、あの身体の末端から細胞の隅々までやさしく染み渡るような音の感触と清廉な音楽を、身体に焼き付けておこうと思う。



余談だけれど、昨夜のルプー氏はピアノ椅子でなく、背もたれのついたパイプ椅子に深く腰掛けるように演奏されていました。髭を湛えたその姿はまるで晩年のブラームスの様。ブラームスもきっとあんな音楽をしていたのだろうな…と想像したし、近年のブラームスに対するイメージ(特に日本での)にはやはり大きな誤解があるように思いました。



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